Yoga

太陽礼拝を分解する(1)

「太陽礼拝さえできていれば十分」

日本にいた時も、こちらでトレーニングを受けた時も、
指導者からは

「1日に太陽礼拝を何セットかできていれば、それで十分」
「太陽礼拝さえできていれば十分」

と、よく言われました。

太陽礼拝や月礼拝は流派によって少しずつ違いますが、アサナを組み合わせて流れの中で行うことに変わりなく、その組み合わせの構成は 側方の伸展・屈曲と捻り以外の 全ての動きの要素が入っており、とてもバランスが取れたものになっています。

太陽礼拝を 安全に、効果的にするために

(側方と捻りを除く)あらゆる動きの要素があるからか、自分自身の体験としても、太陽礼拝を続けることで「持久力がつき、早く体が柔らかくなった」という意識があります。

毎回、何度も行う練習なので、正しい体の使い方で ポイントが抑えられていれば、体の変化は早くなります。

けれど、毎回、何度も行う練習だからこそ、負担のある動き担ってしまった場合はケガにつながるのも早くなります。

繰り返される動きだからこそ、安全で 効果的な練習にしたいものです。

太陽礼拝は動きの中で行われるため、アサナについて細かな確認や修正が難しいのが課題です。

そこで、シリーズで それぞれの太陽礼拝の動きと注意点を確認していきたいと思います。


【 プラナマーサナ 】

ビハール・スクール・オブ・ヨガの太陽礼拝は全部で12ステップ。

今回は、ポジション1と12を見ていきます。

プラナマーサナ、祈りのポーズ。
胸の前で手を合わせて立つポーズです。

目は閉じたまま、足を揃えてまっすぐに立ちます。
ゆっくりと肘を曲げ、手のひらを胸の前でナマスカラ・ムドラ(合掌)で合わせます。
心の中で太陽ー命の源に敬意を捧げます。
身体全体をリラックスさせます。

Asana Pranayama Mudra Bandha (日本語版)より

「え、それに確認いる?」
という感じかもしれませんが、「ヨガはシンプルなものほど、奥が深い」というのが 私の認識。

このポーズにも色々な要素が入っていると感じます。

ナマスカラ・ムドラ(合掌)どこにおく?

合掌ポジションについて、以下を例に見ていきます。

A:腕が山形

「手のひらを胸の前で合わせて」と言われると、特に 日本の文化背景を持つ人においては、このポジションを取ることが多いと思います。

Aの腕の形は、逆転したM字を描いて、合掌は胸骨の前方に位置します。

このポジションで脇を開いている(腕と胸郭が触れ合わない)場合、合掌は胸骨の前で、親指の根本あたりが体に触れるのが自然に感じます。

あるいは、脇を閉じている(腕が胸郭に触れている)場合は、合掌を胸骨の上あたり(喉元の前)でつけておくことも、胸骨の前方に置いて 体に触れずにおくこともできます。
このポジションなら、個人的には、合掌を体に触れさせない方が きゅうくつさがなく自然に感じられます。

B:腕が一直線

Bは腕が一直線になるポジションです。

具体的には、腕に意識するより、
親指の先を 胸骨の真下に当てることでこのポジションを作ります。

手首の固さがあると、やりにくいポジションかもしれません。

実際、私のクラスでお伝えしているポジションはどちらか…というと、

このBのポジションになります。


私も過去には、Aのポジションで練習していました。
その時 意図はなく、その当時の自分にとって「胸の前に手を置く」習慣的ポジションがAだったからです。

しかし、ANAHATA Yoga Retreat(NZ)で指導を受けた時、ピンポイントで合掌のポジションについて指導がありました。

「合わせた親指を胸骨の下に置く」 
「アナハタ・チャクラ(ハートチャクラ)に置く」

赤丸部分に親指の先を当て合掌する。(青色は心臓)

つまり左右の肋骨が合わさり合う肋骨の谷間。
この部分に親指の先が当たるように合掌するということでした。

なぜそうするかの理由については 説明を受けられませんでしたが、ピンポイントに修正が入ったので、それからその位置に変えて練習を重ねてきました。

初めは手首の固さのために、快適に感じなかったこのポジションも、手首の固さが抜けると、Aのポジションではなく、Bを選ぶ理由が自分なりに感じられるようになりました。

今回この記事を書くにあたって、運動生理学的な解説がある資料を見つけることはできなかったのですが、自分なりの気づきをまとめます。


基本はタダアサナ

例えどのポジションで合掌を置こうと、このポーズは立位の基本・タダアサナが土台になります。

腕以外は、タダアサナの理想の位置でキープしたい。
タダアサナを保って、最も体に負担のないかたちで合掌を作りたい。

腕のポジションに関係なく、これがプラナマーサナの目標です。

この目標を実現する場所を探すように、合掌を作ってみましょう。

どこに置いたら、安定しますか?
腕の筋緊張・関節の負担に違いがありますか?

腕を動かすことによって、影響を受けやすいのは
背骨とその延長にある頭部の位置、そして胸郭ー呼吸の動き です。

頭部と内くるぶしを結んだ垂直線上に背骨があること。
胸郭を圧迫しないこと(呼吸が楽であること)。
不必要な筋緊張がないこと。

結局、身体的に負担が最も少ないこと。

これをポイントに合掌のポジションの注意点を見ていきます。


【 努力と負担を最小にするための基本的な注意 】

A、Bのポジションに関わりなく、どのポジションでも問題になる点から確認します。

合掌ポジションの どこか一箇所は体に触れさせておく

合掌ポジションは、脇、上腕、前腕、合掌の部分で構成されます。

この部位を、一箇所も自分の体幹につけないで合掌ポジションを取ることは可能ですが、その場合一気に不安定になります。

安定させるための努力として筋緊張が起き、その力のバランスに違いがあれば、そのままポジションの形は非対称となります。

合掌ポジションを構成する部分のどこか一箇所は体に触れさせると安定します。

プラナマーサナを筋トレにしない

引用したBiharの教本には「身体全体をリラックスさせます。」とあります。

このアサナの目的の一つは「タダアサナを保って、最も体に負担のないかたちで合掌を作る」こと。

合掌が体に触れる触れないに関係なく、合掌している手に圧力(圧迫)をかけると、腕や肩の筋緊張が強くなります。

バストアップの筋トレにこれと似たものがありますが、これでは プラナマーサナの目的から遠のきます。

最小の負担 ー努力、筋緊張で このアサナをキープしたい。

筋トレのように意図的に力を使わなくても、合掌を作るには筋肉を使う必要がある…
ポジションの中で、いかに筋緊張を減らすかが鍵になってきます。

【 Bポジション 】

安定した形の結果、負担が最小

Bポジションで手を合わせる場合、骨格に差があっても、おおよそ前腕は 一直線となります。

それぞれの関節の角度は、手首はAに対して狭いですが、脇、肘はAのポジションより広く取ることができます。

合掌のポジションは、鎖骨、肩、肘、手首を通って四角形を描きます。
双方の腕からかかる力の向き、ベクトルは拮抗し合う位置になります。
肩甲骨も固定されます。

安定した形の中で力は分散されるため、特定の部位にだけ 緊張が高まることがなく、筋肉、関節への負担が小さくなります。

背骨の垂直をサポート

この合掌のポジションで、試しに 背骨を緩める、丸めようとしてみてください。

どうでしょうか?

背骨をまっすぐ保って 腰から曲げることはできても、背骨を丸めるような動きはやりにくくないでしょうか?

背骨を丸めるためには、左右の肩甲骨を互いに離していく(肩を巻く)必要がありますが、合掌ポジションによって肩甲骨は固定されているので、肘を意図的に前方に押し出さないと、肩甲骨を離していって丸めることが難しくなります。

それでもやろうとした場合、拮抗し合う腕が邪魔になり 合掌した親指がみぞおちを圧迫して、苦しくなります。

プラナマーサナでは、タダアサナと同じ背骨のポジションを保つことが一つの目標でした。

背骨を丸めにくい…逆を言えば、背骨をまっすぐに保ちやすいと言えます。
このポジションが、タダアサナに求められる垂直な背骨のポジションを保つ助けになっています。

胸郭の動きを制限しない

また、親指の先がみぞおちに置かれることで、腕が胸郭にほとんど触れずにすむため、腕が胸郭の動きを阻害せず、呼吸が制限されません。

課題は、手首の硬さ

ただ 唯一、Bのポジションでは、手首の角度が狭くなり、人によって快適に感じられないのが課題です。

このために、このポジションを嫌う人もいると思われます。

手首に固さがある場合、はじめは快適に感じられませんが、練習を重ねれば柔軟性はつきますし、そうなれば不快感はなくなります。

そして、手首の可動域(自由に動かせる角度)としても、これくらいの柔軟性は欲しいところです。

【 Aポジション 】

不安定な形を維持するための、何らかの調整が必要

Aの合掌ポジションは、鎖骨、肩、肘、手首を通って、逆転のM、四角形の底を凹ませたような形をとります。
肩甲骨は固定されず、動かすことができます。

それぞれの関節の角度は、手首はBよりも広く保つことができますが、脇、肘はBよりも狭くなります。

双方の腕からかかる力の向きは手首に集約され、Bの形に比べて不安定です。

この不安定さを軽減するために、体は何らかの調整を行うことになります。

この不安定さが、「腕以外は、タダアサナの理想の位置でキープしたい。タダアサナを保って、最も体に負担のないかたちで合掌を作りたい。」ことを、Bよりも難しくしているように思います。

胸郭の動きを制限する

このポジションで脇を閉じる(腕が胸郭に触れる)場合。

腕が胸郭を包むように添わせると、腕の筋緊張は減って楽になります。
一方で、胸郭を覆う腕が、呼吸で拡張する胸郭の抑えになってしまいます。

背骨を緩めることができるポジション

Aのポジションでは肩甲骨が安定しないため、脇を閉じる、開くに関係なく、肩甲骨を互いに離していく動きが許されます。

そのために 無意識でいると、腕の負担を緩めるために 頭を少し前傾させて胸の後ろで背骨を緩め、安定をとろうとする場合があります。
こうなると、背骨は丸くなり、タダアサナで求められる背骨の位置ではなくなります。
また、背骨からつながる肋骨は、背骨の湾曲によって圧迫されて、肺は十分膨らむスペースを確保できず 深い呼吸が難しくなります。

背骨と胸郭への影響を無くそうとすると、腕や肩に緊張が起きる

それでも、Aのポジションのままタダアサナの理想的な背骨の位置を保つこと、胸郭の動きを制限しないことは 意識的に行うことでできます。
ただ、そうすると、この不安定な形を保つために、手首、腕(特に上腕二頭筋)に微細に刺激(筋緊張)が起こります。

これは、胸郭に腕をつけていても、いなくても起きます。
安定を図ろうとする筋緊張が誘引になって、肩周辺に緊張が入りやすくなり、そうなると腹式呼吸より胸式呼吸が優位になりやすくなります。

個人的な体感としても、この時 呼吸の緊張感が高まります。


何が目的か、何を重視するか

「Aのポジションがよくない」ということではなく、アサナとしてやる場合の「安定して負担が少なく長時間保つことができるポジション」が、AよりもBであるというだけです。

敬虔な思いがある時、自然と首を垂れるものです。
首を垂れて行うなら、背骨がカーブを描ける Aの方が、拮抗する力がなく より自然です。

流派によって変わることも考えられます。
結局違いは「何を重要視しているか」、その背景によります。


初回から、やってしまいました。

細かいことをつらつらと…長すぎですね(笑)

本心は要点をちゃっちゃとまとめたいのですが、違いと選択される理由を記していると、出来上がったものに 自分でも「長っ!」と驚いてしまいます。

多分、今後の内容も長くなると思いますが(笑)興味のある方は 今後もお付き合いください。

ここで扱う太陽礼拝は、ビハール・スクール・オブ・ヨガ(BSY)をベースとしたものです。

シヴァナンダ・ヨガやSVYASA大学の太陽礼拝とスタイルは近いですが、
流派によってポーズが異なっており、重視するポイントも違います。
あくまで、このスタイルにおける注意点とご理解ください。