Yoga

太陽礼拝を分解する(6)

繰り返し練習される太陽礼拝。
だからこそ、安全で 効果的な練習にしたいもの。

太陽礼拝は動きの中で行われるため、アサナについて細かな確認や修正が難しいのが課題です。

シリーズで それぞれの太陽礼拝の動きと注意点をシリーズで確認しています。


ビハール・スクール・オブ・ヨガの太陽礼拝は全部で12ステップ。
今回は、ポジション6を見ていきます。

他のポジションはこちらから↓

プラナマーサナ(ポジション1、12)
ハスタ・ウッタンアサナ(ポジション2、11)
パダ ハスタアサナ(ポジション3、10)
アシュワ・サンチャラナーサナ(ポジション4、9)
パルヴァターサナ(ポジション5、8)
アシュタンガ・ナマスカーラ(ポジション6)

【 アシュタンガ・ナマスカーラ 】

アシュタンガ・ナマスカーラ、「八点での礼拝」のポーズです。

つま先(2点)、膝(2点)胸、手のひら(2点)、顎(または額)の8点を地につけ、ひれ伏すー全身で太陽を敬うー礼拝するポーズです。

アシュタンガ・ナマスカーラ(以下、八点礼拝)は 流派によっては 太陽礼拝のシークエンスに無いこともあり、かわりに プランク、チャトランガ・ダンダアサナ(以下、チャトランガ)が入るスタイルもあります。

この八点礼拝については、詳細な解説について活字になって触れられているものが多くない というのが私の印象です。

さらに英語での記述に関しては、好意的ではない表現の方が多く認められました。

特に、チャトンランガとの比較で 好意的でない表現になっていましたが、チャトランガと八点礼拝の方向性自体がかなり違っていると感じるため、「Aにある要素がBにない」という比較は あまり意味がないように思います。

太陽礼拝の方向性と ポーズの特性

そもそも 太陽礼拝の全体像自体が「流派によって方向性が違う」と個人的に感じます。
(以下は方向性の概要を私個人の視点で記しました)

・背骨の柔軟性、ポーズからポーズへの自然な体の動き・流れを重視するもの
・力強さと身体強化を重視するもの

全体像の方向性が違うために、ポーズからポーズへ移る時の流れや、そのポーズに必要とされる身体的強さなどが、それぞれ違っていると感じられます。

「流れを重視する太陽礼拝」を象徴するようなアサナ

BSYの太陽礼拝ではプランク系のアサナがありません。

チャトランガはプランクの系統。
プランクは体幹を、チャトランガではプランク以上に腕への負荷が強い 強化系のポーズです。

それに比べると 八点礼拝は強化より、柔軟性と全身の協調運動が求められるポーズです。

背骨の柔軟性とともに 滑らかな動きが求められる八点礼拝は、流れを重視する太陽礼拝の系統に入っていることが多く、この特徴が色濃く現れているアサナだと思います。

ダンスのように、なめらかに
ー全身の協調運動でおこなうアサナー

まず、このアサナの解説をBSYのテキストで確認します。

手と足は同じ位置を保ちます(一つ前のアサナ、パルヴァターサナのポジションの位置を保つという意味)。

膝、胸、顎を床へ降ろします。足はつま先立ちになります。
完成のポジションではつま先、膝、胸、両手、顎だけが床につきます。

膝、胸、顎は同時に床につけてください。

もし、不可能な場合は、最初に膝を降ろし、次に胸、そして最後に顎の順番でつけます。
臀部と腹部は持ち上げます。

Asana Pranayama Mudra Bandha (日本語版)より

注目すべきは、ここ。

この記載にもあるように、このアサナの基本形は「膝、胸、顎を同時に床におろすこと」です。

今回私が確認した限りでは、八点礼拝の解説があるものでも「同時におろす」ことを重視する解説は ほとんど見つけることができませんでした。

私も、自分のクラスで 安全面から「同時におろす」ことを強調はしていないのですが(理由は“安全におこなう“の段落で触れます)、個人的には このアサナの効果と特徴は、この点に集約されていると思っています。

「同時におろす」ことの効果と特徴は、アサナを静止画で見ていても感じられにくいため、このアサナへの入り方と抜け方を動画で確認しましょう。

独特の体の動きが起きているのがわかるでしょうか。

なんとなく、個人的に 打ち寄せる波の動きに近いように感じます。

同時に下ろすには色々な体の使い方ができますが、自然な動きー

身体において 最小限の負担と労力で行う場合、自分の体重を床の反発を活かして下肢から背骨に伝えながら重心移動を行い、手と足の幅を変えずに、顎、胸、膝を同時におろすために、背骨を柔らかく使う必要が出てきます。

太陽礼拝の動きについて、過去に何度も「ダンスのように なめらかに」と指導を受けてきましたが、この八点礼拝に入る動き・抜ける動きは、まさにそうした体の使い方が求められていると思います。

動きを分解する

パルヴァターサナの手足の幅を変えずに、ここから肩方向へ重心移動。
この時、床反発を利用し重心を持ち上げてから前方へシフトします。

頭部を起こすと、背骨はアーチ状に伸展します(反る方向のアーチが起こる)。
重い頭部が腕前方へ位置するので、支える腕の力が求められます。

背骨が伸展しているために腹部の緊張は強くありませんが、肩を安定させるインナーマッスル、前鋸筋は使う必要があります。


同じ手足の幅で膝・胸・顎を同時に床に下ろすためには、胴体と足の長さを縮める必要があるので、膝を曲げ、背骨の伸展を強めることで、対処します。

その姿勢のまま、膝と胸と顎を同時に下ろします。
ゆっくり安定し安全におろすには、前鋸筋を使えるよう、脇は閉じ、体幹から支えるようにします。

このポーズの間は、原則 呼吸もホールドします(止めます)。

【 安全におこなう 】

最終形であり基本形である「膝、胸、顎を同時に下ろす」ためには、以下の要素が必要です。

・背骨の柔軟性
・体を支える力(腕と体幹を使える力)

さらに、この要素を使いながら、動きを同時に成立させるための全身を使った協調運動が必要になります。

この〈要素2点+協調運動〉がバランスよく行われないと、同時におろすことは困難です。

そのため、初めてやる人が成立させるのはハードルが高いですし、要素が整っていない状態で同時にやろうとするのは、無理があると思います。

要素を整えていく

それぞれの要素を自分の体で深めてから、将来的に同時におろすことを目標にしましょう。

❶背骨の柔軟性

まずは柔軟性から。
現段階の自分の背骨の柔軟性を確認しましょう。

寝転んだ状態から八点礼拝の形を作ってみましょう。

マットにうつ伏せ(伏臥位)になります。
足と足はそろえて一直線です。

うつ伏せになったら手のひらを胸の横に置き、つま先をそろえて立てます(立てるのが快適でなければ立てなくても構いません)。

そこから手の位置を膝方向へずらし、それに合わせて胸も膝方向へ少しずつ近づけていきます。

そうすると、腰を持ち上げざるを得なくなります。

胸が離れてしまわないところまで、苦しくないところまで近づけます。

これ以上近づけられないところまできたら、そこから体を起こして 四つ這いになります。

腕の力を使える方は使ってもいいですし、力のない方はお腹を落として肩を上げてもいいので、手と足の幅を変えずに四つ這いになります。

この時の手足の幅が、現在あなたが行える八点礼拝の手足の幅になります。

これを基本に 太陽礼拝での八点礼拝の練習は、手足をこの幅に調整して行います。

練習を重ねていき、最終的には 手足の幅は 基本の四つ這い「手は肩の真下、膝は腰の真下」の幅まで近づけるのが理想です。
(それよりも手が膝に近づけられたとしても、八点礼拝をする上では理想的な幅ではない)

急がずに、八点礼拝を含む他のヨガアサナの練習を重ねていくことで、いずれ柔軟性はついてきます。

❷ 体を支える力

現在の柔軟性が分かったら、今度は体を支える力を確認し、八点礼拝が行えるよう鍛えていきます。

やりたいことは「腕力強化」ではなく、肩を安定させて行う「体重支持」

八点礼拝で使われる体を支える力は、プランク、チャトランガ、腕立て伏せで使われる体の使い方とほぼ同じですが、アウターマッスルである三角筋や大胸筋を鍛える腕立て方法とは異なります。

目的は、体を支える力を養うこと。
ーインナーマッスルを使える腕立ての動きを身につける必要があります。

【 肩を使って体を支える感覚をつかむ 】

基本の四つ這いになります。

「手は肩の真下、膝は腰の真下」です。

A. 指先の向き:人差し指〜中指がマットと並行

指先は人差し指〜中指がマットと並行になるように置きます。

B. 肘の向き:肘はつま先方向

肘の向きを確認します。
肘の内側が指先方向を向いていて、肘はつま先方向に向いています。
これにより上腕は外旋し、インナーマッスルを使った支え方ができます。

C. 肩甲骨で床を押す

ここで腕に体重を乗せていき、肩甲骨で床を押していきます。

胴体を床方向に落とさず(緩めず)、
右腕ー肩甲骨ー肋骨ー肩甲骨ー 左腕がつながるように、「∩」のように両腕から繋がって胸郭もアーチで支えるように。
「すくい上げるように抱える」ような動きです。

体を支えるにあたり、使えるようになりたい筋肉があります。
前鋸筋です。

肩甲骨で床を押すためには、前鋸筋の働きが必要です。

肋骨から肩甲骨へ繋がっており、脇の下辺りに位置します。
この筋肉が使えると、「脇が閉まる」感覚があります。

この感覚を感じながら行ってみましょう。

D. 腕立て伏せの動きで、胸を床に近づけていく

肩甲骨で床を押す感覚が掴めたら、できる方は実際の腕立て伏せの動きにトライします。

今度は基本の四つ這いではなく、背骨の柔軟性に合わせた ❶で確認した手足の幅で四つ這いになります。

「手は肩の真下、膝は腰の真下」が最終目標ですが、現在胸を床に近づけることができる手足の幅は❶の幅なので、この幅で練習します。

上記のA〜Cの「指の向き、肘の向き、肩甲骨で床を押す」要素は保ったまま、ここから腕立て伏せを行います。

腕を曲げること、胸を床につけることにこだわらず、「脇が閉まり、肩で支える感覚」があることを重視してください。

この際、肩甲骨は「寄るのではなく、離れていく方向」、「肩を上げるのではなく、下ろす方向」で使われます。

逆に、腕が曲げられても、胸が着けられても、肩甲骨が寄って行ったり、「脇が閉まり、肩で支える感覚」がなければ「体を支える使い方」としては問題があり、続けていると怪我につながる可能性があります。

うまくいかない場合は、C「肩甲骨で床を押す」に戻って キープ時間を長くする練習か、立位で壁に向かって腕立ての動きを確認する方法もあります。

もしも「脇が閉まり、肩で支える感覚」がある状態で胸を床につけることができれば、この八点礼拝に必要な体を支える力は備わっていることになります。

腕立て方法については、三角筋・大胸筋といったアウターマッスルを鍛える方向性と、体重支持が目的のインナーマッスルを使う方向性があり、これらは目的も方法も異なります。

手と手の幅を広く取ったり、肘を開いて腕立て伏せを行う場合、肩が上がりやすくなります。
三角筋、大胸筋などの筋肉を鍛えて 強く太くすることができますが、こうしたアウターマッスルが優位になると、体を支えるインナーマッスルが使いにくい状態になります。
アウターマッスルは強化しすぎると肩周辺の筋緊張のバランスを崩し、怪我や不調を招く原因にもなります。
また、アウターマッスルの筋トレは結果的に筋肉を肥大させることになるので、肥大した筋肉の部位は 大きくガッチリして見えるようになります。

体を使った運動をする場合、何を目的として体をどう使うかという視点が抜けていると、自分の願望とは違った結果をもたらす場合があります。


ボディービルダーのように甲冑のような体を作るつもりならアウターマッスルを使う腕立ても有効ですが、体重を支えるための肩の使い方、腕と体幹をつなげていくには インナーマッスルを使えるようになることが不可欠です。


腕を使った体重支持で使われるインナーマッスルは、上腕三頭筋、前鋸筋。
肋骨に付着した前鋸筋は肩甲骨に繋がっており、体幹と腕をつなぐ役割も果たします。
前鋸筋は、腹斜筋、腹横筋、横隔膜、大腰筋、骨盤底筋群といった体幹のインナーマッスルとも繋がっているため、前鋸筋が使えるようになることは、スムーズな全身運動、協調運動ができる体になるためにも重要です。

腕を使って体を支える動きの中で、是非とも前鋸筋を使いたいところです。

❸ 同時ではなく、別々に下ろす

❶、❷の要素が確認できたら、太陽礼拝の中での練習にうつります。

BSYテキストにもあるように、同時ではなく 順番におろすと負担が軽くなります。

❶で確認した手足の幅をとり、膝をついたら、❷の体を支える使い方ー脇を閉じて体幹を使いながら、胸→顎の順で床に近づけます。

練習を繰り返す中で2つの要素が整ってくれば、いずれは同時におろせるようになります。

【 アサナを味わう 】

このアサナには以下の2つの要素があると触れました。

・背骨の柔軟性
・体を支える力(腕と体幹を使える力)

同時に下ろすにはどちらも必要になりますが、胸をつける位置を調整することでこの比重は変えることができます。

※以下の内容は、基本の四つ這い「手は肩の真下、膝は腰の真下」の手足のポジションでやった場合の話です。

①背骨の柔軟性 〉 体を支える力

胸を手首より後方(つま先側)へ下ろします。

重心が両手のライン内に収まるので、②に比べ腕への負担が小さくなります。

背骨の伸展(反る方向のアーチ)が大きい分、ポーズへの入りと抜けの動きが大きく、ポーズを抜ける際に、蛇が這いながら頭をもたげるような、胸と腹部を床に滑らせる動きが起こります。

この動きを成立させるために、背骨を滑らかに使える必要があります。

一方で、背骨の伸展が強いポジションのため、この状態で顎を引いて額を床に着けると(個人の骨格にもよりますが)、引いた顎が気道を圧迫、閉塞感が起こり 感覚として負担を感じる人が出てくると思います。

額をつけることが快適な方はそれでかまいませんが、このポジションであれば、そのまま脊柱を伸展させる動きの「顎をつける」ほうが 快適な人が多いのではないかと思います。

②背骨の柔軟性 〈 体を支える力

胸を手首より前方へ下ろします。

重心が両手のラインより前方に出るため、より腕と体幹で支える必要性が出てきます。
その点で、チャトランガと近い体の支え方になります。

背骨の伸展が①に比べ小さいので、顎を引いて額をつけることも自然に感じられます。

ただし 背骨の伸展が小さいこと・つけた胸の位置関係から、胸と腹部を滑らせる距離が小さくなり、ポーズの入りと抜けの動きが小さくなります。
結果的に、背骨の動きは小さくなるということです。

本来、BSYのスタイル自体が動きの流れを重視する太陽礼拝なので、②を選ぶ場合も 胸をあまり前方におきすぎない方がいいと 個人的には思います。


体格には個人差がありますし、練習した方がいい方向性にも個人差があります。

だからこそ「“これが“万人にとって正しい」ということではないので、ご自身がやりたい方向性や、快適に感じられる動きに合わせて、胸をつける位置を調整して練習するのがいいと思います。

ここで扱う太陽礼拝は、ビハール・スクール・オブ・ヨガ(BSY)をベースとしたものです。

シヴァナンダ・ヨガやsVYASA大学の太陽礼拝とスタイルは近いですが、
流派によってポーズが異なっており、重視するポイントも違います。
あくまで、このスタイルにおける注意点とご理解ください。