Yoga

自分に合うヨガを見つける

まずは私のクラスの特徴を説明しましょう。

私のクラスは、ビハールスクール・オブ・ヨガ(BSY)、VYASAベースの伝統的/全人的なハタヨガ・スタイルのクラスです。
クラスの構成は、アサナ(ポーズ)、プラナヤマ(調気法)、リラクゼーション/瞑想で、それぞれを重視しています。また、それぞれの構成の中で、バンダやムドラも行います。
この構成の練習を 10年以上続けています。

現代のヨガのメインストリームは、アサナのみを行う エクササイズ系のヨガだと思います。
あるいは、緩めて委ねる、リラックス系のヨガも人気です。
ヨガが盛んなカルフォルニアでも、全人的なスタイルは 探すこと自体 難しい現状です。
そんな中 私のクラスでは、現代ではどちらかというとマイナーな 伝統的、全人的なスタイルを選んでいます。

なぜか?

気持ちいいからです!

以上~!

私に限らず、誰においても どのヨガをしていても、理由は  「それが気持ちいいから」でいいと思うのですが、それでは話が終わってしまうので(笑)、
私がなぜ この全人的スタイルを選んでいるのか ご説明したいと思います。
結果的に、皆さんにとっても 自分に合ったヨガを考える機会にもなるのではないかと思います。

WHY yoga?

はじめに。 なぜヨガを選ぶのか?

エクササイズなら、エアロビクス、ピラティス、バレエワークに、ダンス、ランニングも…他にもいろいろあります。
正直「痩せるため」だったら、他のエクササイズがいいかもしれないと思う…
ヨガは即効性はありません。いわゆる「部分痩せ」もしません。
例えば 私自身、他にアルゼンチンタンゴもやっています。
けれど、タンゴに求めることと、ヨガに求めることが違います。

私がヨガを選ぶ理由は、将来にわたって「健康」を維持できそうだから。

「健康」とは何か?

自分が表現する健康としては、「体や心に制限がなく自分の最大の能力が発揮でき、やりたいことに向かうエネルギーが滞りなく流れる状態」。

養護教諭として健康について伝える時も、健康であることが「自分の可能性を生かせる状態」で「最も美しい状態」だと信じ伝えてきました。

ヨガは、アサナで筋力・バランス・耐力・しなやかさを作りながら、内臓・内分泌・神経系を調整することができます。
プラナヤマで、心肺機能の能力を高め、呼吸のコントロールを通してマインドの調整が行えます。
リラクゼーション/瞑想を通して、自分の本質的な願いに気づき、生きる道筋が見えてきます。
ヨガの練習を続ける中で、バランスのとれた身体つき、姿勢、身のこなしは もちろん身につきます。
しかしそれ以上に、変わっていく環境・人間関係 ー外の世界ー、変わっていく体・心 ー内側の世界ー に合わせて、“今”の自分に最適な状態にチューニングする技術が ヨガだと思っています。

変化に強い体、心の状態を作ることができる。
年齢関係なく続けられて、続ければさらに磨きがかかる方法。
これを 1時間~1時間半程度の間で、多方面を調整できる点が いいと思っています。

さらにヨガの継続した練習は、自分の想定する外にまで変化を起こしていきます。
到達したらこんな感覚だろうと思っていたものに近づく時、それが想像とは違い、思いのほか高くて 遠いところだったということが 度々あるからです。
自分にとって、ヨガは自分を調整し 変えていくツールになりつつあります。

呼吸   ーどう吸って、どう吐くかー

クリシュナマチャリア系統、シヴァナンダ・ヨガ、BSY、SVYASAなど、伝統的なヨガでは  呼吸は鼻から吸って鼻から吐きます。
一部のヨガスタジオでは、鼻から吸って口から吐くところもありますが、口を使ってしまうと、長く深い呼吸が難しくなります。

口呼吸で一番気になるのは、アサナ中にウジャイ呼吸が行えなくなること
ウジャイ呼吸はプラナヤマで使われるだけでなく、アサナを行なっている時に行うことで、体をパワフルに変えていくことができる呼吸。
これを使えないなら ヨガの効果の半分が使えない!と思うものなので、鼻から吸って鼻から吐く伝統的な呼吸を私のクラスでは使います。

解剖生理学的にも、鼻は呼吸の専門機関、口は発声/摂食が専門で、呼吸には興奮時(たくさん酸素が必要な状況の時)補助で使われるものです。
口呼吸を改善する意味でも、鼻だけで呼吸することが体の基本になる方が望ましい。
口を使う理由はあると思うので そうしたクラスでは、その理由を確認しておくといいと思います。


なんにせよ、「呼吸そのものがヨガ」。呼吸の説明があり、呼吸を大事にするクラスがいいと思います。

What is プラナヤマ?

プラナヤマは呼吸の制御の意味で、呼吸法または調気法と呼ばれます。

アサナの時に行なっている呼吸とは別の、呼吸を使う練習法です。
古典的には、生命の間を流れるエネルギー=「プラナ」の蓄積と活用を、呼吸を通して学ぶ方法です。このエネルギーは中国の人々には「気」と呼ばれました。
身体的には、心臓・肺への負担を少なくし、最大の酸素供給ができる体に変えていく方法です。
そして、心理的には呼吸を調整することでマインドの状態を整えようとする試みでもあります。
驚いた時に呼吸が止まるように、不安な時に呼吸が早くなるように、リラックスするとゆっくりと息を吐き出すように…心の状態と呼吸の状態には相関性があるからです。

現代人は、慢性的な運動不足、ストレス、パソコン・携帯電話など腕を前方に伸ばし画面に向かう姿勢などの影響から胸郭を圧迫する姿勢で過ごす時間が多くなりました。
この姿勢は腹部の内臓だけでなく肺を圧迫することになり、結果的に肺の機能が低下している人が多くいます(井本先生の本が詳しいです)。
さらに、高齢期になると声がかすれる人が増え、呼吸機能は抗いようなく 衰えていくものです。

骨密度や筋力のように、呼吸機能が衰えないように強化しておくのは重要です。
また、40代以降の死亡率はガンに次いで心臓病が多くなります。
酸素を体に送り届けるための心臓の拍動は、肺でのガス交換の質によって大きく変動するため、ガス交換の効率が下がると心臓への負担につながります。

これらのことから、クリシュナマチャリアは中年期以降の対象ではプラナヤマの練習の時間配分を大きくしていたといいます。

プラナヤマはヨーガ・スートラやハタ・ヨーガ・プラディーピカーでも重要な練習方法として取り上げられているにもかかわらず、取り上げているところは多くありません。
残念ではありますが、誰でも彼でも教えているというのは 不安でもあります。
プラナヤマの効果は高いけれど、肺はとても繊細な器官であるため、容易に傷ついてしまうからです。
ヨーガ・スートラには指導の詳細な記載はなく、古くは師から弟子へ口伝で伝えられてきました。

プラナヤマは 間違いなく、ヨガが持つ大きな魅力の1つです。
ぜひ経験していただきたいですが、講師自身が修練を積んだ、経験ある人から指導を受けるようにしてください。

プラナヤマの修練をしているかどうかは、講師の声の質 ー息の長さ、チャンティングの響きに 深さ、美しさがあるかどうかでわかります。

WHY holistic?

同じヨガでも、一つのクラスの中で、アサナのみ行うクラス、プラナヤマと瞑想を行うクラスなど様々です。
なぜ限られた時間の中で、holistic(全人的)スタイル ー アサナ、プラナヤマ、瞑想/リラクゼーションを組み合わせて行うのか?

全人的に取り組む必要性の論拠は、ヨーガ・スートラや、ハタ・ヨーガ・プラディーピカー、ヴァカバッド・ギーターの中から見つけることができますが、馴染みのない方には複雑な話に思われると思うので、身近な話に引きつけて考えましょう。

「1」と「1」と「1」 を足しても、3になるとは限らない。
「1+1+1」 によって ∞ を めざす。

例えば、私のクラスの参加者に「気持ちよすぎて 寝てしまいそうだ」と言われることの多いリラクゼーションの時間。アサナの後に組まれています。
もし、クラスに来て、寝転んですぐリラクゼーションだけをおこなったなら、これと同じ感覚が得られる?

そうではないでしょう。

程よくアサナで体を動かした後に横になると、肉体的・感情的にも不要なエネルギーが抜けて、膨張するような軽い感覚がありつつ、体は自然と重く 床に委ねる感覚になります。

この状態で始まるからこそ 心地よさが感じられるのであって、リラクゼーションだけを単発で行なったところで その体感は得られないものです。
それぞれを分けて行なった経験と、組み合わせて行なった経験は同じにはならないということです。

瞑想についても考えましょう。

瞑想をするとして  日常の仕事の合間に単発でやろうと思っても、顔がかゆいとか、足の違和感、明日の予定など…色々他に気が散って心静かに集中する難しさを感じるでしょう。

あるヨギは瞑想を「do」ではなく「be」だと表現しました。
集中を経過し、その中に没頭することで「起こる」継続的な状態。
心が静かになって、集中できる状態を まず作る必要がある。

これらは、訓練によって、準備がなくてもできる人もいることでしょう。
でも、私たちの体も環境も、常に揺らいでいて、毎回必ず、即座に その状況になれるわけではありません。
揺らぐ体・心、環境の中、いつも変化している自分がある。
それでも、ある一定の状態へ 毎回自分を持っていこうとする取り組み ーこれが全人的スタイルだと理解しています。

自分を、ニュートラルな状態へー

アサナでエネルギーを減らし、プラナヤマでマインドを鎮め、明瞭にし、瞑想が起こる状態を整えていく。
瞑想が自然と起こりやすい状態へ整える 。
結局、このプロセスが効率的で、自然だから 継続してきたのだと思います。

自分を理解し、自分の本質的な願いに意識を向ける

世界に存在するすべてのものは、善悪に関係なく、それぞれ必要性があって存在しています。

競争社会の中で、激しく自己を消耗する状況にある人には、緩やかで委ねるスタイル ーリストラティブ・ヨガや陰ヨガが合っているかもしれないし、
気持ちが下向きになりやすい人には、エネルギッシュなパワーヨガやホット・ヨガが合うかもしれない。
一方で、怒りを感じやすいひとがパワーヨガを継続すると、バイタリティが溢れるのはいいけれど強いエネルギーに揉まれて、自分も周囲もその熱で傷ついていく可能性もあります。

「心地よさ」が エゴから来るのか、本質的なところから来るのか。
「心地よさ」の実態も見つめる必要があります。

自分がヨガに何を求めているのか。
自分はどういう状況にあって、今はどれが自分に合うのか。

ヨガに限らないことですが、「自分の本当の願いは何か」を自分自身に問いかけることが、よりよく生きる上で とても重要だと思います。
(ヤマのサティヤがこれにはとても重要です)

ヨガは、それ自体「自分を知る」一つの手立てでもあります。
あなたが「ヨガをしたい」と思った時から、あなたは自分を知る過程に足を踏み出しています。


あなたが望むヨガとの しあわせな出会いがありますように。
そのために ぜひ、自覚的に「あなたのしたいヨガ」について考え  選んでください。

このサイトが あなたの出会いたいヨガの助けになれば幸いです。


※ビハール・スクール・オブ・ヨガ(BSY)、サティアナンダ・ヨガ
シヴァナンダの弟子、サティアナンダ・サラスワティが創設したBiharにある、インド最初のヨガの専門大学、研究機関。ヨガの科学的・医療的研究、書籍発刊、ヨガの普及啓発・指導者の育成をしている。サティアナンダは、インドで最も貧しく危険だった地域の1つ・ビハールを変えるために、あえてこの地に施設を開設し地域の振興に寄与してきた。インドのモディ首相は2019年に、ヨガの普及・発展に貢献した個人・団体4つを初めて表彰したが、BSYはそのひとつである。

※VYASA、S-VYASA(スワミ・ヴィヴェーカーナンダ・ヨーガ研究財団)
Bangaloreにあるスワミ・ヴィヴェーカーナンダの教えに基づいたヨガの研究・治療機関。インド中央政府公認のヨガ講師養成講座(YIC)、ヨガ療法士養成講座(YTIC)があり、療法を視野に含めた指導者育成にも力を入れている。喘息、糖尿病、乳がんなど 疾患におけるヨガ療法の研究も盛んで、インドやアメリカなど、国内外のホリスティック医療機関と研究を行なっている。

※T・クリシュナマチャリア
近代ヨガの父と呼ばれるヨギ。弟子に、B.K.S.アイアンガー(アイアンガー・ヨガ)、K.パタビジョイス(アシュタンガ・ヨガ)、息子のT.K.Vデシカチャー(heart of yoga著) 、スリヴァスワ・ラーマスヴァーミー(The Complete Book of Vinyasa Yoga著)などがいる。現代のハタ・ヨガは大なり小なり彼のスタイルに影響を受けている。

※ウジャイ呼吸
プラナヤマの1つ。深く長い呼吸ができ心を沈静化させる作用があるほか、アサナ中に行うと、ポーズが安定し一箇所への過度な負荷を避けられるためケガの防止にもつながる。複数の臨床研究があり血圧低下、心血管の機能調節効果について報告がある。

※「弱った体がよみがえる 人体力学」井本整体の主宰 井本 邦昭 著
整体の観点からまとめられた本だが、呼吸器の重要性、刺激を与える望ましい時間帯など、ヨガの解釈と重なる部分が多い。

※ヨーガ・スートラ
インドの哲学の6派哲学のうちの1つ、サーンキャ・ヨーガ学派の聖典。ヨガの哲学・論理の基本として、RYT指導コースにおいても哲学の必修項目になっている。シンプルな単語を用い、無駄な言葉を極力削ぎ落とした明確な表現で、195に厳選されて論説されている。

※ハタ・ヨーガ・プラディーピカー
ハタ・ヨガの経典。タントラ・ヨガの経典で、アサナやプラナヤマについての具体的な記載がある。

※ヴァカバッド・ギーター
ヴェーダーンタの聖典。「神の詩」の意を持った叙事詩、アルジュナとクリシュナの対話集の形をとっている。詩的で歌える形になっており、重要な節は反復して表現されている。サーンキャ学派の論理を展開する章もあり、ヨーガ・スートラと共通点を見ることもできる。