太陽礼拝を分解する(4)
繰り返し練習される太陽礼拝。
だからこそ、安全で 効果的な練習にしたいもの。
太陽礼拝は動きの中で行われるため、アサナについて細かな確認や修正が難しいのが課題です。
シリーズで それぞれの太陽礼拝の動きと注意点をシリーズで確認しています。
ビハール・スクール・オブ・ヨガ(BSY)の太陽礼拝は全部で12ステップ。
今回は、ポジション4と9を見ていきます。
これまでの確認はこちらから↓
プラナマーサナ(ポジション1、12)
ハスタ・ウッタンアサナ(ポジション2、11)
パダ ハスタアサナ(ポジション3、10)
アシュワ・サンチャラナーサナ(ポジション4、9)
パルヴァターサナ(ポジション5、8)
アシュタンガ・ナマスカーラ(ポジション6)
ブジャンガアサナ(ポジション7)
【 アシュワ ・サンチャラナーサナ 】
アシュワ・サンチャラナーサナ、乗馬 または 騎乗する騎士のポーズ
アシュワ・サンチャラナーサナは、流派による違いを探そうと思えば いくらでも探せそうなほど、細かな違いがあるポーズに思います。
重視するポイントが異なることによる最終形の違いもそうですが、ポーズの入り方にも違いがあります。
最終形の説明の前に、このポーズの入り方から確認します。
どちらの足から始めるか。
ポジション4で入るときの足。ポジション9で戻るときの足。
「右足で入って、左足で戻る」毎回この順番で入る。
「右足で入って右足で戻る」次は「左足で入って左足で戻る」をセットで繰り返す。
など…
足の入り方にはスタイルによるバリエーションがあります。
私のクラスで行っているBSYのスタイルでは「奇数セット」と「偶数セット」でポーズ自体が対になる形になっており、そのため2セットで「太陽礼拝1セット」とカウントされます。
奇数セットは右足が後方に伸びているポーズ。
右足を下げてこのポーズに入り、戻る時は左足を前に出します。
続けて、偶数セットは左足が後方に伸びているポーズ。
左足を下げてこのポーズに入り、戻る時は右足を前に出します。
下げる足と戻す足が変わるので 少し混乱しやすいですが、ポジション4とポジション9で作るポーズは毎回同じになり、次のセットではその反対の形を行う というのがBSYのスタイルです。
【 最終形を確認する 】
ポジション3より、片足を後方へ大きく下げます。
後方へ下げた足のつま先を立てた状態で、その膝を床につけます。
そこから骨盤をできるだけ床方向へ近づけ、上半身は伸びていくように起こし、視線は斜め上天井のほうへ向けます。
股関節の前面、特に意識して使いにくい腸腰筋のストレッチを行うことができるポーズです。
腸腰筋が使われることで、筋膜でつながる内転筋群へも刺激を与えることができます。
安定して行うには股関節前面の柔軟性と共に、体幹の強さも求められます。
「伸ばしながら支える」感覚を大切に行う
個人的には、深く行えると 後方に伸ばした足の親指裏から膝、股関節まで刺激がつながっていくのを感じられます。
このつながりは「伸びている」だけでなく、「使いながら支えている」感覚でもあります。
そこから起こした上半身までつながって「伸ばしながら起こす」ことで、ポーズ全体に「伸ばしながら支える」感覚が生まれます。
アシュワ・サンチャラナーサナの理解の仕方は、流派だけでなく、人によって千差万別という印象ですが、個人的には、
「支えている筋肉が伸ばされる」
「伸びている筋肉が支えも行う」
それが最大値として感じられる ーつま先から上半身へ向かって感じられる
という点が、BSYスタイルにおける良さではないかと感じています。
「伸ばしながら 支える」
1.伸ばすー 股関節前面のストレッチを深める
アシュワ・サンチャラナーサナで最も重要なことは、股関節前面のストレッチです。
股関節前面ー腸腰筋と内転筋群ーに刺激が入る必要があります。
この視点にそってBSYのスタイルでの深め方を確認します。
① 骨盤を床に近づける
股関節前面のストレッチを行うために、骨盤を床方向へ近づける意識を持って行います。
これはどのレベルの方においても大切な要素です。
この後続くどの要素を加えても、この「骨盤を床に近づける」意識が不可欠です。
柔軟性がつくまでは無理をしないことが大切ですが、最終形を目指す方は、骨盤は床方向へ向かう意識をもって、股関節前面の伸びを心地よく感じましょう。
② 膝をつけて、より股関節前面のストレッチを深める
膝をつけないローランジもありますが、BSY、VYASAともに膝をつけるのが最終形です。
膝が離れている場合は、つま先と両手で体を支える必要があるため、ストレッチに対し筋力の強化がメインになりますが、膝をつける場合は、膝をつけることで安定性が増す分、筋力の強化よりも 股関節のストレッチが強調されます。
まず、後方の足を十分遠くに置けた場合には、膝がつかない状態より 膝が床につく状態の方が、股関節前面の柔軟性が必要になります。
さらに、膝が床につくとそこに体重がのり支点にすることができます。
支点になることで股関節を斜め下方へ押し出しやすくなり、股関節のストレッチが強化されます。
③ 上半身の引き上げと、手との関係
最終形では、視線を斜め上方向へ、体幹を使って上半身は引き上げます。
この動きを成立させようとすると、結果的に胸は太ももから離れます。
そうなると、(腕の長さにもよりますが)手のひらは自然と床から遠くなり、指先が触れている程度になるでしょう。
手や手首を痛めずに、股関節前面のストレッチを深める
それでも指や手首を痛める心配はないはずです。
上半身が引き上がると 重心は肩ではなく骨盤側に寄るために、腕で体を支える必要性は弱まります。
さらに、上半身を床方向へ沈めるのではなく、上方へ引き上がる意識で体幹で支えると、ますます腕に体重をかける必要性がなくなります。
手のひらが床から離れていても、上半身を引き上げることによって骨盤を後傾させる動きが起きるので、手のひらがついていたときよりも股関節のストレッチを強くしていくことが可能になります。
手が離れると、上半身の引き上げが起こる
引き上げによって、ポーズの「伸ばしながら支える」要素を高める
手のひらが離れることのもう一つの利点は、体重を乗せられないこと。
逆を言えば、手のひらがついていると、上半身を前方の曲げた足や腕に乗せることが可能になります。
手のひらをつけても、上半身を引き上げる意識で行うこと自体は可能ですが、このまま上半身を乗せてしまうと、上半身は床方向へ沈むベクトルになり、ポーズの中の「伸ばしながら支える」要素が大幅に弱まり、緩みのあるポーズになってしまいます。
そして、重みを乗せることは、手首への負担が高まるということ…。
手のひらが離れたら、上半身を沈ませられない。
上半身が引き上がるから、手のひらが離れる。
双方の要素が影響しあって、伸ばしながら支える要素を高めることになります。
手のひらを離すのは、上半身が引き上げられるようになってから
ただし、股関節前面の柔軟性が不十分で、体幹の引き上げる力も十分でなければ、上半身は引き上げられないために、手のひらがどうなっていようと、腕で体重を支える必要があります。
その状態で手のひらを離すことは指を痛めるだけになるので、上半身が引き上げられるようになってから、手のひらを離していくようにしてくださいい。
「伸ばしながら 支える」
2.全体を使って支えるー つま先を立てる方法の特徴
股関節前面のストレッチを深めるポイントを確認しました。
次は、「伸ばしながら支える」鍵となる部分を確認していきます。
膝をつける場合、つま先を伸ばすことも、立てることもできますが、BSYではつま先を立てて行います。
つま先を伸ばす場合、体を支える部分は 前方の足底と後方の足の下腿ー膝から足の甲までーの2箇所になり、ストレッチの刺激も膝から上に起こります。
膝から下は全て床に触れるので安定して、股関節前面のストレッチが行えます。
後方の足の 甲から足の付け根まで、脚の前面をストレッチすることができます。
安定したストレッチと、脚前面のストレッチができるのが つま先を伸ばす場合の特徴でしょう。
このつま先を伸ばす方法は、BSYの月礼拝 アルダ・チャンドラアサナで確認できます。
このポーズは、後屈して足の甲から指先まで体の前面をストレッチするもので、体前面のストレッチが、つま先を伸ばして行うことによって遺憾なく発揮できます。
つま先を立てると、体を支える部分は前方の足底、後方の膝、後方のつま先の3点になります。
後方の足の膝から下は、膝とつま先しか床に触れないので、つま先を伸ばしている時よりも不安定になりバランスと それを支える力が必要となります。
この姿勢で行うと、(骨盤が床から遠いと刺激が少なく感じにくいですが)骨盤が床に近づけば近づくほど、ストレッチによる刺激が 膝から上だけでなく、膝裏の奥から下腿、親指の裏側まで つながるように刺激が起こります。
この時の刺激とストレッチは、つま先を伸ばした時の脚の前面ではなく、もっと内部で起こっているのを感じられます。
さらに、つま先を立て かかとを垂直に立てることができると、股関節は外旋方向へ働きます。
結果的に骨盤を起こす(後傾)ことになり、腸腰筋への刺激が入ることになります。
足の先端、つま先まで「伸ばしながら支える」感覚が内部でおきるのが、つま先を立てるスタイルの特徴と言えます。
【 BSYスタイルで深めていく場合の特徴 】
前方の足底、後方の膝、後方のつま先 の3点で支える
骨盤を床へ近づける意識で
上半身は上方へ伸びていくように起こす
【 安全な方法で行う 】
最終形から確認しましたが、股関節前面の柔軟性が不十分で、かつ、体を支える筋力も十分でないと、最終形に近い形に体を持っていくことは 体の状態として無理があります。
いずれは股関節前面の柔軟性がついて、足を大きく下げられるようになりますが、このアサナで獲得したい効果は保ったまま、安全にできる方法を確認していきましょう。
まずは避けたい例です。
まだ股関節前面の柔軟性が不十分の場合、腰が床から離れれば離れるだけ股関節の開脚角度が小さく楽です。
そして、太陽礼拝は動きの中で行われるため、次のポーズに素早くうつることができない場合、時間を稼ぐために このように骨盤が床から遠くなる…肩より高い位置になってしまう例を見かけます。
この形になると、前方の足に ースネと太腿に上半身の重さを預けて、後ろに伸ばした足で支える必要性が減ってしまいます。
残念ながら、この使い方では「伸ばしながら支える」ことができません。
骨盤が肩より高くなると股関節前面のストレッチをかけにくくなります。
また、肩の高さより骨盤が高くなると上半身は床前方へつんのめるので、上に引き上げることができずに、床方向へかかります。
この状態では、腕で支える必要性が高まるために、手のひらにかかる体重が大きくなり、手首の怪我も招きやすくなります。
① 膝をつけて、骨盤を床に近づける意識で行う
「骨盤を床に近づける意識」は最終形でもビギナーにも必要ですが、柔軟性が不十分だと、何をどうしたら安全に股関節前面のストレッチができるか…というのが問題になるかと思います。
まず、安定してストレッチができる状態に体を持っていきたいです。
後方へ下げる足を、無理のない範囲におきましょう。
膝が下ろせる位置に後方の足を置きます。
クラスでも「足を後方へ下げます」と説明してしまうため、「遠くにおかなければ!」という気になってしまうかもしれませんが、重要な点ではありません。
膝をストッパーとして、位置を工夫して 股関節に無理なストレッチがかからないように調整します。
可能な範囲で、腰の位置が肩の高さより低くなるようにしましょう。
膝が浮いているより 床につくとポーズが安定し、重心も肩から骨盤方向へ傾き、ストレッチに集中できます。
そこから、骨盤を床に近づけて、股関節前面のストレッチを行います。
「それじゃ膝がストッパーになってしまって、ストレッチができない」という方もいるでしょう。
その方は もっと足を後方へ下げられる方です。
股関節前面のストレッチが心地よくできるところまで、足と膝の位置を調整してみてください。
練習前に 下げる位置確認をしておく
太陽礼拝中は動きの中で行うので、太陽礼拝の練習中に膝の位置調整はできませんが、あらかじめ今の自分のできる範囲を確認しておいたら、練習中に足を下げる位置の目算がつくと思います。
練習が深まれば、次第に足は後方へどんどん下がっていき、膝はストッパーとしての役割より、股関節のストレッチを深める支点として使えるようになるでしょう。
【 体を支える筋力が十分ではない方へ 】
膝を床へ下ろさないで練習してもかまいません。
それでも、前述の通り骨盤を床に近づける意識と、腰を肩より低い位置に置いてください。
そうしないと、股関節前面のストレッチを深める練習にはなりません。
その上で、膝を床に下ろさない場合 膝を下ろす時以上に、自分の体重を足の筋力や体幹で支える必要性があります。
この時、十分支えられない体の状態で行うと、重力と体の重みは、可動性のある開脚部になる股関節前面へかかります。
筋肉が使えていない状態ー緩んだ状態で重力のかかかる開脚を行うと、体重が股関節伸展部へかかり、無理なストレッチとなります。
筋肉のブレーキが効かせられない中での負荷は損傷の恐れもあり、注意が必要です。
② 手のひら・手首の負担をできるだけ少なく
一つ前の段落で、「股関節の柔軟性が不十分な場合は 膝をついて股関節の角度を調整しながら行うのが安全」と話してきました。
ポーズを深める点ではそれでいいのですが、最終形と比べると 重心は前方へ傾きがちになり、その重さが腕にかかってくることになります。
腕で体を支える必要性が出てくるということです。
手首のケガはヨガの中でも多いと言われています。
類人猿の手は ぶら下がることに優位に発達してきたので、手で体重を支えるのに向いているとはいえないことがその背景にあるようです。
手や手首を痛めないためには、手の使い方が大切になります。
手のひらのアーチをつぶさずに使う
手も作りとしては足の作りと似ており、足の裏にアーチがあるように、手にもアーチが存在します。
土踏まずがつぶれてしまうと痛みにつながるように、手でもアーチを保って身体を支えましょう。
・ 支持基盤を広げるために、しっかりと手を開く
・ 手のひらの付け根と指の腹が床にしっかり触れている
・ 手のひらはくぼみのアーチ、指のアーチを保って、床に押し付けない
・ 床に触れているところでも余分なリキみをしないように
これはこのアサナに限らず、腕も使って体を支える必要のある あらゆる他のポーズでも同様のことがいえます。
太陽礼拝中 動きの中で、何を優先したらいい?
さて、実際の太陽礼拝中、フローの中で行うと、「足を無理のない範囲で下げる」と 次のパルヴァーターサナには足の位置が手前すぎて、両足の位置を変える必要が出てくるかもしれません。
「足が前後して、バタバタしてキレイじゃない…」
「早いリズムじゃ、そもそも調整する時間がない!」
納得のいく動きにならないかもしれませんが、あまり完璧にならずに、安全に7割くらいができたらいいという気分でやってみましょう。
スローリズムではキープが長めになるので、じっくり安全な方法で行い、早いリズムで行うときは 安全性のために反動はつけずに、ストレッチよりもリズムを守るなど… やれる範囲で大丈夫です。
どんな形でも、バタバタ動かすことになっていたとしても、大切なのは、骨盤を床に近づける意識を常に持つこと。
そして個人的には、必要な部分に「伸ばしながら支える」感覚がおきていれば、このアサナは、ご自身のレベルにおいて「深まってきている」といえる練習になっていると思います。
だんだんと股関節前面の柔軟性はつきますし、ついてくれば「太陽礼拝がとてもスムーズに、深くできるようになった」と感じられるアサナだと思います。
そういう意味で、体の変化も感じられやすいアサナです。
指導や理解に個性が現れるアサナ
ヨガ講師だけでなく、解剖学的理解があると考えられる理学療法士、整体師、操体法指導者、パーソナルトレーナー…
少し調べれば 様々な方が様々な視点で、アシュワ・サンチャラナーサナ(ローランジを含む)の解説をしており、真逆のことを言っていることもあるくらい、それぞれの理解が異なるのが、このポーズの現状と言えます。
ヨガは裾野が広く 玉石混交なのは事実です…
安全ではない指導法も中には混じっているかもしれませんが、違っていること自体は「どれが正しく、どれが間違っている」という問題ではないと思います。
意識したり使いたい部位が異なるために、アプローチの仕方が異なり、そうなると安全性のポイントも異なってくる… というのが、私自身の理解です。
その分、各スタイル、講師の特徴が表れているアサナといえるかもしれません。
そういう意味で、このアサナについて ブログなどで解説を読んだり、体験クラスで受けた時の指導を通して、その講師が指導しているヨガがどんなものか、自分に合うかどうか考えるのにも役立つかもしれません。
ここで扱う太陽礼拝は、ビハール・スクール・オブ・ヨガ(BSY)をベースとしたものです。
シヴァナンダ・ヨガやsVYASA大学の太陽礼拝とスタイルは近いですが、
流派によってポーズが異なっており、重視するポイントも違います。
あくまで、このスタイルにおける注意点とご理解ください。