Yoga

アサナを深める –パスチモッターナーサナ、ジャヌシルシャーアサナ−


座って行う深い前屈のポーズ

今日は重要なアサナの1つ、パスチモッターナーサナ、ジャヌシルシャーアサナについて説明します。

パスチモッターナはサンスクリット語で、「背後を伸ばす、背中を伸ばす※」という意味。前屈しながら、背面を伸ばすのが目的になります。

パスチモッターナーサナは、長座(ダンダアサナ)の状態から 股関節を起点に前屈し、体の背面 −首から踵まで− を最大限にストレッチすることができるアサナです。
体の背面の中でも、ハムストリングの柔軟性が重要になります。

ハムストリングは体の中でも最長の筋肉群で、体の動き、姿勢に大きな影響を与えています。
けれども年齢問わず硬く、短くなっている人が多く、そうした人は体の動きが良くありません。
腰痛の原因には、ハムストリングを含む体の背面の硬さもあると言われています。
本来ハムストリングが使われるべき時にハムストリングの動きが不十分だと、その動きを腰で改善しようとし、腰へ負担をかける動きが癖になっている人多いからです。
ヨガをやる以上、それ以前に 体の動きを変えたいと思うなら、ハムストリングが十分使える状態になることは基本です。
安全な体の動かし方、腰を守る体の使い方を身につけるために、パスチモッターナーサナを安全に、より深められるような練習にしましょう。

ジャヌシルシャーアサナは、パスチモッターナーサナの片足バージョンとも言えるもの。
簡易版と思われがちですが、片足ずつ行うことでより丁寧にストレッチでき、左右差や突っ張りやすい部分を細かく観察することができるため、丁寧で意識的な練習ができます。
現在 私の個人練習でも、パスチモッターナーサナよりジャヌシルシャーアサナを重点的に行なっています。
左右差を確認したい、丁寧に行いたい場合は、ジャヌシルシャーアサナをお勧めします。

アサナを深めるためのポイント

まず、ハムストリングに限らず、体の首から踵まで 背面全てを伸ばすのが目的なので、全てを伸ばせる形になるのが目標です。

写真を見てみましょう。
Aが目標とする最終形、Bはどちらかというと、体の改善に繋がらない、怪我のおそれがある形です。
違いはどこか、何が問題か、意識するべきポイントを確認していきましょう。

①前屈をするときは、「二つ折り」に

写真のAは真っ直ぐで二つ折り、Bは上半身がアーチ状になっています。
前屈のポーズでは全般的に、「アーチ」にせず「二つ折り」を目指します。


背骨と背骨の間には、椎間板があり、椎骨(背骨一つ一つ)の隙間から神経が伸びています。
椎間板は椎骨同士のクッションの役割を果たしていて、衝撃から守り屈曲を可能にしています。

水色が椎間板。黄色が神経。

椎間板は、押しつぶすような強い圧迫がかかると圧がかかった反対側の椎間板内から、髄核を飛び出させる力がかかります。
加齢によって椎間板の弾力が失われることに加え、過度な圧迫が継続的に起こり、悪化すると椎間板ヘルニアとなります。
さらに、椎骨と椎骨の間が狭まると、椎骨の間から伸びている神経を椎骨同士で挟んだり、当たったりすることにより、神経痛を起こしやすくなります。
人体の動きとして、この負担は避けられない部分もあるのですが、本来の機能を出来るだけ長く 安全に使っていきたいですよね。

この負担を軽減するためには、体を動かす時に 椎骨と椎骨の間をできるだけ広く保っておくこと。
椎間板への負荷は、背骨を曲げるなど 動かす時に強くなるので、体を動かす時にそういう癖をつけておきたい。
椎骨と椎骨の間を最も広く保つ方法は、動きの前に背骨をできるだけ伸ばすことになります。
アーチにするより、まっすぐの方がいいわけです。

前屈では股関節から曲げることで、背骨をアーチにせず 二つ折りにすることが可能です。
そして、二つ折りの状態が、最も体の背面を伸ばしている状態です。
そもそも、「背後を伸ばす、背中を伸ばす」アサナ。
体背部の伸びを感じながら行うようにしましょう。
前屈しながら、息を吸うタイミングで背骨の伸び ー特に 骨盤と肋骨の間が広くなる感覚を感じましょう。
こうすることで、腰のアーチを避け腰椎の間を広く保つことができます。
そこからお腹を太ももに近づけるつもりで二つ折りにしていきます。

②お腹を太もも近づける、顔は前方

顎や額が足についたらいいな…と思うかも知れません。
写真をよく見てください。アーチ状でも顔を足につけることができます。
しかし、背部を伸ばすために アーチ状ではなく2つ折りにしたいのでしたね。
二つ折りをするためには、上半身のどの部分よりまず、「お腹」が「太もも」に着くようにします。
まず、お腹を太ももに近づけるようにしましょう。
それまで、顔は常に前方へ向けて、足のつま先以外は見えない角度にしておきます。

顔を足につけるなら まずアゴに。
「お腹→胸→鎖骨(あるいは胸骨)」の順で上半身全てが足に触れるようになってから、初めて、足におろしましょう。
顔の一部がついていても 他が体から離れているときは、ストレッチは不十分で、上半身のどこかがアーチになっているはずです。

③腰ではなく、股関節から曲げる

腰(この場合背下部)から曲げようとすると、まず二つ折りはできません。
腰は背骨(腰椎)のあるところで関節はないため、アーチ状にしかなりません。
さらに、腰で曲げる癖は、椎間板ヘルニアを引き起こす可能性を高めます。
残念なことに、ハムストリングが硬い人は、ハムストリングの動きの悪さを、腰の動きでおぎなうのが癖になっています。
こうなると、悪循環です。

股関節は可動域の広い関節で、 二つ折りにすることが物理的に可能です。
前屈の動きでは、股関節から曲げる癖を、体につけていきましょう。

④ジャヌシルシャーアサナ:伸ばした足、つま先の位置を意識する

パスチモッターナーサナでは、足を揃えれば胴体に対して垂直の位置に両足がきますが、ジャヌシルシャーアサナでは、伸ばした足が不安定になります。
効果が高い一方、安定性が欠けやすく、本来行いたい形から崩れやすいのが問題です。
ここで無意識に形の崩れを許すと、使いたい筋肉が使えず、アンバランスを強調してしまうことになり、体の改善につながりません。

①伸ばした足に対して、胴体が垂直の位置にあるか
②つま先は右や左に倒れず、左右の床から90度の位置にあるか


これは、最初にチェックするのはもちろんのこと、前屈の最終形の時も確認します。
前屈が深まる過程で、ますます体が逃げようとするからです。
位置が変わっていたら、足が正しい位置になるまで前屈の角度を戻しましょう。



より やさしい方法

初心者の方は、目指すならこれ。
Cは、膝が伸びてお腹がどこよりも太ももに近い状態。
Dは、太ももを抱えて最初からお腹をくっつけてしまう。そうすると股関節はすでに2つ折りになっています。
そこからお腹を離さないで、伸ばせるところまで膝を伸ばしていきます。
どちらも最後まで 顔は前方を向いています。

絵的には全然深まっていく練習に見えないかも知れませんが、Bの練習を続けるより ずっと安全で体が変わる方法です。
エゴに負けずに、確実な方法を選びましょう☆

アサナの練習を続けると…

今回紹介したアサナの練習は、他の全てのアサナ、体の動きを変えていく効果があります。
ですので、「自宅で時間がない、でも何かヨガの練習がしたい」という人にまずやって欲しいもの。
継続すると驚くほど変わります。
(単体で練習するときは体が緩みやすい夕方や入浴後がお勧めです)

ハヌマーンアサナ /アンジャネーヤサナ

上級のアサナを将来挑戦したい人にとっても、基礎となる重要なアサナです。
例えば ハヌマーンアサナは身体的には前屈と後屈が同時に起こっている状態で、深い前屈と後屈が 快適に行える体ができている必要があります。
上級アサナの準備のためにも、基本のアサナを正しく、深められる方法で練習しましょう。

後屈と前屈 もう少し詳しく

背骨の解剖を見てみます。

哺乳類には、4足歩行の頃に形成した機能として背骨の前面には靭帯が付いています。
これは4足歩行の場合、常に大地に向いている背骨前面側には重力がかかり、何もしなくても椎間板が前面に向かって飛び出しやすい構造なので、それを保護をするために生まれたと考えられます。
では天に向いている背面はどうかというと、4足歩行の場合、重力と反対の方向で負担が少なく、靭帯はあるのですが前面ほどしっかりしたものではありません。
この構造は2足歩行になっても変わりませんでしたが、重力のかかる向きが変わりました。4足歩行で守られていた機能は、2足歩行時には不十分になります。

後屈の場合は、2つ折りにできる関節がないため、アーチ状にするほかありません。
しかし、後屈の時に椎間板が飛び出しやすくなる前面には、重力に負けないよう付着した靭帯があり、これが保護になって椎間板ヘルニアが起きにくい作りになっています。
一方、前屈では椎間板が飛び出しやすくなるのは背面側ですが、特に保護的な構造がありません。
結果的に、保護機能のない前屈の時に 椎間板ヘルニアの危険が高くなります。
ただし、前屈の場合は股関節というとてもよく動く関節があるため、椎骨と椎骨の間を出来るだけ長く保って − つまり背骨を出来るだけ伸ばしたまま2つ折りにすることで、負担が軽減されます。

Paschimottanasana(パスチモッターナーアサナ)
Paschima=西(転じて、背面)、uttana=伸ばす、真っ直ぐな状態
伝統的にヨガは日の出とともに行う習慣があり、そこから、朝日が当たる東が体の前面を、西が体の背面を意味している。