Yoga

アサナを深める −トリコナーサナ−

体の側方を伸ばすポーズ

クラスで必ず行うアサナの1つ、トリコナーサナを今日は見ていきます。
このポーズでは側方を伸ばすことが重要です。

体の前屈と後屈は日常生活でもよく行う動きですが、側方への屈曲・伸展はそれに比べて多くありませんし、側方屈曲は 前屈・後屈に比べて、屈曲できる範囲(可動域)も大きくありません。

そのあまり使われない側方屈曲・伸展ができる練習ですが、意図して行わないと 前屈の動きで補おうとしやすいアサナです。

前屈の動きを使うと、股関節を開けないこと、このポーズで本来使いたい筋肉を使えないこと、そして、股関節のニュートラルポジションが保てないことから、前屈の動きを起こさずに練習する必要があります。


前屈をさせないで練習する方法

− 壁を使う −

このポーズに前屈の動きをさせないで練習するには、壁が有効です。

壁を使うことで、骨盤のニュートラルポジションを保ちながら側方へ曲げ、伸ばす動きを確かめることができます。

❶ まず背中を壁につける形で、トリコナーサナのために足を開く
足で正三角形を作るくらいの幅で開きます。

前方の足先は90度に、後方の足先は内側45度程度に調整します。
足の角度を調整したら、赤い部分(頭部、手の甲、肩甲骨、腰、後方の踵、前方の足の側面)を壁から離さないようにします。

最終形まで、赤い部分は壁から離さないで行います。

❷ 腕を誰かに引っ張られるように、前方へ伸ばす

この行程を飛ばされる方を 時々見受けます。

ここで行いたいのは背骨をのばすこと。
パスチモッターナーサナでも説明しましたが、背骨を曲げる前には伸ばしておきたい。

アサナを深める −パスチモッターナーサナ、ジャヌシルシャーアサナ−

重要性が伝わりにくいのだと思いますが、大切な行程です。
このアサナでも、屈曲する前にできるだけ伸ばします。

腰がつられて前方へ出ないように。
少し後方へ引くぐらいの気持ちで安定させて、そこから背骨を伸ばしていきます。

❸ これ以上伸ばせなくなったら、側方へ倒していく

赤い部分を壁から離すことなく、側方へ倒します。
深く倒そうとすると、壁から離れはじめる部分があるかもしれません。
壁から離れた部分があることに気づいたら、角度を戻して壁に当たるところでキープします。

普段の練習より 手のひらが床に近づかないかもしれません。
側方屈曲のみで行うと、そうやすやすと手を床に近づけられないのは 人体の構造上当然です。
普段の練習との差を感じるとしたら、前屈の動きを使って行っていた可能性が高いです。

床に手を近づけることを優先せず、壁に赤い部分が当たる場所で 呼吸を続けましょう。
呼吸を使って、側方伸展に必要な 内腹斜筋、大腿筋膜張筋などを伸ばしていきます。

「すぐに浮く!」「全然側方に倒せてない!」と感じたとしても大丈夫。

骨盤のニュートラルポジションを保ったままでの側方屈曲は、想像以上に 可動域が大きくありません。

身長など個人の体格にもよりますが、赤い部分全てが壁から離れないで 手を床につけられる人のほうが限られています。
練習することによって自分なりの可動域は広がっていくので、焦らずに、まずは現状を受け止めます。

どんなことも 現実を正しく受け止めることが、始まりです。

自分の体がどこまで動くのか。
壁をつかう練習の時に、側方屈曲のどの辺りで、体の どの部分が浮き始めるか確かめます。
そして、手を床に近づけたい誘惑と、それに対する自分の体の反応を観察します。

この壁を使った練習を ヨガクラスの時間や普段の練習の時に思い出して、
骨盤や肩の動き、床に近い手の位置、前屈の動きでポーズを取り始めていないか 確かめてみてください。

この練習は現実を突きつけられる苦い方法ですが、その分、前屈への逃げができない状態で練習するので、
「できているつもり」でやる練習を繰り返すより、確実に側方への屈曲を深めることができます。

アサナを深めるためのポイント

では、壁での練習を生かして、実際のクラスの時に気をつけるポイントを確認します。

このアサナで側方屈曲・伸展を優先させるなら、床に手をつけたり、足の親指を持つことはゴールではありません。
前屈の動きを使って手を床に近づけても、側方を伸ばす練習にならないので、
壁での練習のように、側方への屈曲と伸展に意識を向けましょう。

【 側方を伸ばすことに意識を向ける 】

① 肩と骨盤が前へ(床に向かって)倒れないように

側方を伸ばすなら、そして、骨盤のニュートラルポジションを保つなら、壁を使った練習のように、理想的には 右肩左肩のライン、右腰左腰のラインが、床に対して垂直のラインになっていてほしい。

けれど、壁で練習したように 肩や骨盤が前方へ出やすいので、まず 意識して 前方へー床に向かって倒れないように、
どちらかというと、上の写真のように天へ向けるようにします。

この動きで、壁での練習よりも側方への伸展が高まるのが感じられるでしょうか。
刺激が起きているのは、後ろ足に近い内腹斜筋、大腿筋膜張筋になります。

手のひらが床についたとしても、肩と骨盤が天を向いていることを確認します。
前屈の動きを使って 行なっていないか確認します。

肩や骨盤が前傾しているのに気づいたら、手の位置を戻します。
そうすると上半身の角度も緩くなるので、肩と骨盤を天に向けやすくなるでしょう。

② 天を指す腕は伸びていくように、そのまま上半身を引き上げる

天を指す腕はどんどん伸びていくように。
上半身もそのまま、重力に反して体を支え、床に向かって沈まないようにします。

この上半身を引き上げようとする力は、そのまま 肩と骨盤の前傾を防ぎ、側方の伸展を高めることにもなります。

床に手のひらがついたとしても、それは変わりません。
床に上半身が沈むような支え方をすると、上半身を支えるインナーマッスルが緩みます。
ポーズの不安定さにつながるとともに、屈曲・伸展の支点になっている部分、腰周辺の負担につながります。
また、上半身が緩むと、肩や骨盤が前方に倒れやすく 前屈の動きも現れやすくなります。
さらに、下半身からのエネルギーが途切れて ポーズとしても弱々しくなります。

どのアサナを取るときも 「一体感」を大切に。
上半身は重力に反して自ら体を支えるように、その流れが腕を伝って天へ放たれるように。
上半身を使うときの、軽さと力強さをアサナの中に感じましょう。

③ 床に近い方の手で上半身を支えない

「上半身を引き上げる」 という話の言い換えになりますが、
床に近い方の手で体を支えないようにします。

手が体のどの位置にあっても、太ももでも、スネでも、床でも…
その手に体重を乗せてしまわないように。

手で支えようとしているものは、上半身の重みです。
上半身は重力に反して自ら体を支えるようにします。
床に近い方の手は、届くところに −バランスのために添えるという意識で。

一方で、この手をどこにも添えずに浮かせている方もいますが、
上半身が不安定になるのはもちろんのこと、手が離れていると足(または床)から伝わるエネルギーがなく、大地との一体感がなくなります。

どこかしら手は体に添えている方が、天に近い方の腕の引き上げも強くなり、全身を使う感覚も強いように感じます。
ここでも、「一体感」を大切にしてください。

最終形 :手は床に下ろす? 足の親指を持つ?
図のラインで ひと続きになる感覚がある

床に近づける手の位置の最終形は、「床に下ろす」「足の親指を持つ」など 流派によって異なりますが、私のクラスでは 足の親指をつかみ引き上げる形をとっています。

様々な理由を背景に 最終形や注意点が異なるわけですが、骨盤のニュートラルポジションを重視する場合は、足の指を持つ方が ポーズが深まるように思うからです。


例えば私の場合。
身長が高くなく腕も長くない体格で 手をつけようとすると、背骨は床と平行を超えて、更に床に近づける必要が出てきます。
そうなると 人体の構造上 可能な側方屈曲の範囲を超えてしまうので、動き(体の側面の短さ)を補うために骨盤は前傾するしかなくなり、ニュートラルポジションを保てなくなります。
意識次第で骨盤と肩を天に向ける感覚は持てるのですが、前方の足と骨盤が近い(実際重なる)ため 股関節前面を伸ばす感覚が弱くなり、指をつかんだ場合と比べて、骨盤を十分に開けない感覚があります。

水色の部分が長拇趾屈筋

胴体に対して 手足が長いような体格の方においては、床に手をつけてもなお、骨盤のニュートラルポジションを保てる方もいるかもしれませんが、
体格に関係なく 手を床につけることを重視すると、意識が下に向くので 上半身が床に沈み込みやすくなります。
(もちろん意識次第なので、手をついても引き上げられますが、起きやすいという意味です。)

足の指を持つ方法では、指を持ち上げることで 下に向かって体重をかけられず、上半身を引き上げるしかなくなります。
また、つかんだ指とつながる長拇趾屈筋の伸展が起こり、前脚の伸展が親指から始まることになります。
結果的に伸展が必要な範囲も広がり(写真ピンクのライン)、ポーズを深めることができます。