その練習をする「最適な時」
「すごいヨガ」 「すごいヨギ」
と言われて、頭に浮かんでくるのはどんなものでしょうか。
instagram上には、華麗な写真がいっぱいアップされています。
そういうのかもしれないし、あるいは こういうのかもしれない…
こういうアサナをできるようになるのを目的に、ヨガを始める人もいるのかもしれません。
残念ながら、これらのアサナを 私のクラスで練習する予定は “今のところ”ありません。
これらのアサナや instagramに乗せられるような「形」が作れるようになる目的でも クラスは構成していません。
なんのために したい?
なんのために そのポーズが したいのか?
なんのためにヨガを練習するのか?
そのために どんな練習を選ぶのか?
これと関連する話は 以前のブログでも触れました。
仮に、「すごいポーズ」ができるようになりたいとして、それはなんのためでしょう?
ーシルクドソレイユに入る?
(笑)たぶんそうではないですよね。
… シルクドソレイユに入るつもりなら、そのためのトレーニングをしたほうがいいと私自身は思います。
ー「すごい」ポーズができる状態だから、体が変わっている? 体の癖が改善して、体の動きがよくなっているはず?
ー「すごいポーズができた」という 達成感のため?
健康とその先ー wellnessについて
保健衛生学の考え方の1つに、wellness–ウェルネス−があります。
これは病気がないことを超えた状態であり 健康を「基盤」として、その基盤をもとに豊かな人生、輝く人生を実現することが「ゴール」とする考え方です。
保健アプローチは、人々がどの段階にいるかで変わります。
全ての人が目指す状態は、健康です。
「健康は、生きる目的ではなく 毎日の生活の資源」という言葉がありますが、健康があって、生きたいように生きるベースになるからです。
そこから、自分の自己実現に向けて、幸福の最適化を目指すこと ーこれをウェルネスと表現する動きがあります(ウェルネスの定義は、現状、団体などによって様々です)。
身体、心、人間関係、仕事、環境…自分を構成するそれぞれの部分で、健康だったり病的だったりと 一定ではありませんが、
それぞれの段階で、自分がやれること、目指すことは変わってきます。
最終はどの部分もウェルネスを目指したいですが、その前に健康を保持できていないと 難しい部分があります。
今が その練習をする「最適な時」か、そうでないか
アサナに話をもどします。
今回、このブログのために写真を撮りましたが、私自身は冒頭のアサナを普段の練習では行いません。
というか、このポーズのための練習をしたことはありません。
参加したヨガクラスやワークショップでシークエンスに入っていて「やってみたらできた」「出来ることがわかった」というアサナです。
(「子どもの時にバレエ、新体操をやっていた」 といった、幼少〜思春期のトレーニング経験は一切なく、やったと言えることは 普段の練習を続けてきたことだけです)
変わったアサナができるのは嬉しいことですが、限られた練習時間に やりたいアサナは他にたくさんあります。
ヨガのアサナは8万超あると言われており、もし存在する全てのアサナを毎日練習しようとしたとして、1日は8万6千400秒のため、1つのアサナを1秒でやっても、寝食も考えれば、アサナ以外のことは もう何もできない…。
そんなわけで そもそも、日々練習するアサナは取捨選択する必要があります。
そんな中、
・多くの人が やったほうがいいアサナ
・あなたにとって 必要なアサナ
・やってもやらなくてもいいアサナ
と、それとは別の軸で、
・今 トライできるアサナ
・まだトライする段階にないアサナ
が その人のレベル、体質によってあります。
冒頭で紹介したようなアサナは、「健康」レベルを目指す人にとって、“不可欠”なものではないと思います。
上級アサナの多くは、基本になるシンプルなアサナの効果の高いもの、強度の強いものが多く、シンプルなアサナやアサナの組み合わせで、近い効果が得られます。
「健康」を目指す効果だけで言えば、シンプルなもので十分なわけです。
さらに言えば、上級アサナのいくつかは、人によっては骨格的(先天的)に完成させることができないものもあります。
全ての人が完成を目指して練習した場合、一定数の人が完成させられないし、その練習の過程を通して将来にわたって苦しむような怪我をする可能性があります。
自分はどこにいるのか、何を目指すべきか
冒頭に紹介したアサナの一部は、ヴィンヤサ・クラマのプライマリーに含まれています。
The Complete Book of Vinyasa Yogaを書いたラマスワーミーは、ハイレベルのダンサーにヴィンヤサ・クラマ・ヨガを教えていました。
ダンサーは表現力を支えるために、バランス力、柔軟性、瞬発力を生み出せる強靭な体が求められます。
一般的な人に求められる以上の能力が必要な 身体能力の高いダンサーたちのために、アサナを指導・構成していたようです。
冒頭のようなアサナは、すでに基準以上の強さ、柔らかさ、バランス力があり、その身体能力・表現を用いて「ウェルネス」を達成する、自己実現を目指す人々が行う練習であって、「全ての人ができた方がいい、練習するのが望ましい」ものではないと思います。
もちろん、ダンサーでなくても、高い身体能力を獲得したい人は練習する価値のあるものです。
けれど、その前に 「多くの人がやったほうがいいアサナ」ができるか、「“できる”だけでなく アサナが快適で深く行える状態」になっているか 確認してみてください。
保健衛生学の概念で ウェルネスの前に、健康が基盤になるように、
ウェルネスの対象になる上級アサナを目指す人は、基本の健康維持目的のアサナを、労力なく 安定して快適に行える状態が、安全で確かな方法に思います。
どちらかというと 「上級ポーズをいつかはしてみたい」という思いがある人にこそ、基本的なアサナの練習を丁寧に続けてほしいと思います。
体の癖を取り除き、体の動きを変えるには、繊細に体の声を聞いて、角度や手の位置、内部の感覚に意識を向けて行う、丁寧な練習こそが “不可欠”だからです。
意識を向けることについては 「いま この瞬間」に意識を向ける
そうやって丁寧に練習した結果、準備が整った時 (先天的な課題がなければ)大きな苦労なく上級アサナができる体になっていると思います。
これは私自身の経験も 例になります。
上級アサナのための練習は、体の準備が整っていない人にとっては、ケガの危険があります。
さらに「これをできるようになりたい」という渇望や執着がセットになっていたりすると、ポーズの完成はただエゴを強化するための道具になりかねません。
このマインドについては 体を変えていくために(マインド編)
どれが今、最適か。どれが今の自分に必要か。
自分の練習では冒頭のアサナの練習は行わないと言いましたが、日々の練習では シンプルなアサナも丁寧に行うし、クラスでは行わない もう少し上級のアサナも組み込んでいます。
全ては、 「どれが今、最適か」「どれが今の自分に必要か」が基準です。
現在のクラスの構成は、全くの初心者から中級以上の方まで、それぞれのレベルで課題が見つけられる構成にしています。
同じアサナでも、advancedバージョンも選べるよう それぞれのレベルで取り組めるように 構成しているつもりですが、シンプルなアサナが退屈に感じられる時は、そのアサナが持つ核となる部分で ポーズが深まっていない可能性があります。
その時は、クラスの後でもいいのでご質問ください。修正ポイントを一緒に確認しましょう。
小さなポイント1つ 修正するだけで、シンプルなアサナをより味わえるようになります。
いずれはウェルネス目的の、よりしなやかで強靭さを目指すヨガクラスも、計画できたらと考えています。
クラスで“その練習をする「最適な時」”が来たときは、最良の方法で始められるように、私も準備をしたいと思います。