Yamaー乱れる環境から離れ、自分を守るためにー
こんな日々が来ると 誰が想像できたでしょうか。
この一月の間、日々刻々と 情報、状況が変わり、人々の認識、行動を変えてきました。
この新型コロナウイルスをめぐる騒動は、不安、不信、焦り、そして時に対立と嫌悪を生み、多くの混乱が起きていますが、
ここから何を受け取るかは 選ぶことができます。
この出来事は、自分と世界について考えるための 優れた教材でもあります。
こんな時こそ、ヤマ・ニヤマが必要になる と感じています。
ヨガの八支則
ヨガはもともと、心を統制するためのものです。
ラージャ・ヨガの経典「ヨーガ・スートラ」には、心を統制するための修練を8つの段階に分け、これをAshtavangani、「八支則」と呼んでいます。
【 ヨガの八支則 】
❶ ヤマ 【禁戒】
❷ ニヤマ 【勧戒】
❸ アサナ 【坐法】
❹ プラナヤマ 【調気】
❺ プラティヤハーラ 【制感】
❻ ダラーナ 【凝念・集中】
❼ ディヤーナ 【瞑想】
❽ サマディ 【三昧】
こうしてみれば、アサナはヨガの一部分でしかありません。
実際、ヨーガ・スートラにある195の経文※のうち、アサナについて書かれているのは「3つ」だけ。
ヨガを「ただの運動」で終わらせないためには、ほかの要素も意識する必要があります。
ヨガ哲学の基本になる ヤマ・ニヤマ
八支則の最初の一支が ヤマです。
続くニヤマとともに、ヨガ哲学の基本的な教えになります。
ヨーガ・スートラでは、ヨガクラスで一般的に行う「アサナ」は 順序として、ヤマとニヤマを修練してから取り組むものとなります。
アサナ習得の過程では、すごいポーズができるようになった自分への自信、全能感、周囲と比べての優越 など、エゴを不必要に肥大させてしまうことがあります。
そのため、自分と世界の見方についての修練をしてから、アサナを始める というのがラージャ・ヨガの基本です。
ヤマ(禁戒)
まずはヤマの全体像を見ていきましょう。
ヤマは、日常生活で 他者や環境(自分自身を含む)に対して守るべき5つの心得と言えます。
① アヒムサ(非暴力)
② サティヤ(真実・正直)
③ アスティヤ(不盗)
④ ブラフマチャリヤ(禁欲・エネルギーの正しい使用)
⑤ アパリグラハ(不貪)
※ それぞれの項目には、今後のブログで触れていきたいと思います。
ヤマ・ニヤマをする意味
最初に ヨガテキスト的なことではなく、私の経験したことから話したいと思います。
ヨガの指導者トレーニングを受けていた時、このヤマ・ニヤマについて、毎週1つを取り上げて、その内容を意識して生活し、レポートをまとめ、翌週ディスカッションする、ということをしていました。
ヤマ5つ、ニヤマ5つで 計10週、毎回この取り組みを続けました。
この取り組みでグループの参加者が口々に語っていたのは、
「自分と周囲との関わりを考えることができた」
「この視点を持つことで、冷静でいられた(怒りを感じないで済んだ、背景を考えたなど)」
「心穏やかに1週間過ごせた」
という言葉でした。
私たちは 常に、周囲の環境と影響を受け合って生きています。
自分の行動によって、良い影響を与えることもあれば、その逆もあります。
もちろん、周囲からも影響を受けることになります。
自覚的であれ、無自覚であれ、この因果関係の中にあります。
ヤマ・ニヤマを学び実践することは、この因果関係に自覚的になるということだと 個人的には理解しています。
ヤマとニヤマを、日常に取り入れることで、自分と環境との関わりについて、影響について、自分の心の動きについて 考えやすくなります。
自分を含む環境へ 良い影響を与えることができたら、周囲からの悪い影響を出来るだけ受け取らないようにできたら。
どれだけ、自分の心は穏やかでいられるでしょうか。
ヤマ・ニヤマの実践を重ねることで、自分と環境、自然の中にあるバランスについて考え、このバランスを崩すのではなく、逆にバランスの波がわかれば、それを生かして最良の状態を探せる、待てるようになる。
ヨガにおいて、ヤマ・ニヤマが重視される理由は ここにあるのだと思います。
環境への相互の影響に 無防備でいることは、影響を直に受けて、常に揺らぎやすい状態といえます。
平常時でも、その揺らぎに 自分の心が乱れることもあるでしょうが、平常時を超えた影響を受けたときは、混乱に見舞われるかもしれません。
特にこのような、非日常の中で、人々の不安や欲望を垣間見る状況にあっては。
実際問題、COVID−19の流行が引き起こした変化を受けて、ここ10日間で起きたこと、周囲から受けた影響は 自分にとって大きなものでした。
コロナウイルス自体は 最初からそれほど怖いと感じなかったけれど、それを受けた人々の行動、集団の心理には 底知れぬ不安を感じました。
一方で、揺れがあるからこそ、普段の生活の中にあったものの ありがたさ、自分の心や考え方の癖、こだわり(執着)に気づくチャンスにもなります。
日常を大切にしながら、揺れる自分の「今の土台」となっている部分を見つめる。
ヤマやニヤマを考えることによって、より揺らぎにくい心へと調整していくことが必要だと思います。
最も重要なのは「実践」
とはいえ、早い方法はありません。
ヤマ・ニヤマも アサナと同様です。
実践し、何度も経験することで、そのカタチ、核、本質がわかってきます。
私自身も、まだまだ実践が足りませんが、このような時期だからこそ、ヤマ・ニヤマについて、ご紹介していきたいと思います。
アサナのように、少しずつ、出来ることから始めていきましょう。
※ヨーガ・スートラの経文は、解釈によって 計196 または195と数が違います。今回はShriram Sarvothamの解釈に則りました。
このヤマの項目で引用しているヨーガ・スートラの経文は、日本語訳出版物からではなく、Shriramの英語対訳を私なりに日本語訳したものを掲載しています。
Shriramは、サンスクリット語研究、ヨーガ・スートラの研究を続けているヨギです。